いけばな龍生展「植物の貌2025」現地レポート|龍生派華道家が語る渋谷の生け花・華道展
- いけばな教室 おおら花
- 2025年12月27日
- 読了時間: 14分
更新日:6 時間前

生け花・華道展という「成果の場」
生け花・華道展は、各流派の作家たちが日々の修練の成果を披露する特別な場です。
生け花の作品は、鑑賞するだけでも空間に漂う張り詰めた気配や、作品が放つエネルギーを感じ取ることができます。
それは写真や映像だけでは決して伝わりきらない、現場でしか体感できない日本文化としての生け花・華道の魅力です。
私自身、龍生派の華道家としてこれまで数多くの花展に出品・鑑賞してきました。
また、東京で生け花教室・華道教室を運営し、初心者の方から師範資格を目指す方まで、日々レッスンを通して生け花・生花・華道の魅力を伝える立場でもあります。

本記事では、【いけばな龍生展 植物の貌2025】について、実際の会場の空間構成、花材(お花・植物)の使い方など、
華道を習い事として続けている方、これから生け花・生花・華道を始めてみたい初心者の方に向けて、ブログ形式で詳しく記録していきます。
著者である私自身も、龍生派の華道作家として本展に出品しています。
その立場だからこそお伝えできる、龍生派という流派の展示構成、生け花芸術としての強度、そして「植物の貌」というテーマが、どのように会場全体で物語ったのかその魅力をお伝えしていきます。
いけばな龍生展「植物の貌2025」現地レポート
この記事でわかること
・「植物の貌2025」開催概要
・渋谷で生け花展を行う意味
・迎え花 ― 展示の始まり
・生け花のフリーテーマ作品
・渋谷ストリームならではの展示
・生け花のカフェ・バースペース
・初心者・子どもたちの体験
・大作・実り 表現の集積地
・古典華の世界:立華と生花
・著者/いけばな教室ご案内
「植物の貌2025」開催概要
▶ いけばな龍生展 植物の貌2025
会期:2025年11月21日(金)— 24日(月・振休)
前期:11月21日(金)ー 11月22日(土)
後期:11月23日(日)ー 11月24日(月・振休)
会場:渋谷ストリーム ホール 4・5・6階
開場時間:10:00〜18:00
入場料:当日1,700円(前売り1,300円)/高校生以下無料
主催:龍生派家元 吉村華洲 + 龍生派本部
いけばな龍生展は、龍生派の教授以上の華道家のみが参加する、年に一度の特別な生け花展です。
今回の展示は、翌年に控える龍生派140周年記念を目前にした重要な節目の展覧会でもあり、生け花・華道・植物表現のエネルギーを、これまで以上に強く感じさせる内容となっていました。

渋谷という街で生け花展を行う意味
「渋谷で生け花展?」
初めて生け花・華道に触れる方にとっては、静かに鑑賞する日本文化というイメージと、渋谷という街の喧騒は、少し意外に感じられるかもしれません。
しかし実は、渋谷は生け花・華道にとって非常に重要な歴史を持つ街でもあります。
昭和30年代、前衛芸術が最盛期を迎えた時代、渋谷では「東横いけばな展」という、日本の生け花史において語り継がれる伝説的な展示が行われていました。
この東横いけばな展では、当時の前衛芸術の強烈なエネルギーを背景に、生け花特有の家元制度や流派の垣根を超え、個性あふれる華道家たちが作品を発表しました。
もちろんその中には、龍生派の先代家元である吉村華泉家元、吉村隆副家元といった、龍生派を代表する作家たちも名を連ねています。
そこに共通していたのは、技法や様式以前に、作品一つひとつから放たれる圧倒的な個性のエネルギーでした。

変化し続ける渋谷 × 日本文化 × 生け花
渋谷は、若者の街、カルチャーの街、ビジネス・テック企業が集まる街へと、時代とともに姿を変え続けています。
その変化の連続性の中に、日本文化としての生け花・華道をもう一度根付かせていく。
その試みこそが、龍生派がこの5年間、渋谷ストリームホールの3フロアを使っていけばな龍生展を開催し続けてきた背景でもあります。
龍生派は、作家一人ひとりの個性を何よりも尊重する流派です。
同じ流派に属していても、作品の表情、植物の扱い方、空間の捉え方は十人十色。
その多様なエネルギーを、一つの展示空間で体感してもらうために、渋谷ストリームホールという立体的な会場が選ばれています。

渋谷ストリームホールという展示空間
渋谷ストリームホールは、渋谷駅直結の複合施設内にあるイベントホールで、高い天井高と、街を一望できる大きな窓、そして複数フロアを縦断する構造が特徴です。
生け花展・華道展においては、平面的な展示にとどまらず、視線の高低差、動線、背景となる都市景観まで含めた空間演出が可能な、非常に稀有な会場と言えるでしょう。

龍生派ならではの展示構成
龍生派の展示は、いわゆる「作品を並べるだけの花展」ではありません。
ダイナミックで迫力があり洗練された大作
中小規模の個性的な自由花作品群
異素材などを用い、多角的な視点で魅せるテーマ席
初心者向けのワークショップスペース
生け花を鑑賞しながら過ごせるカフェ・バー
といったように、生け花・植物の多様な見せ方、可能性を提案する構成が会場全体に張り巡らされています。
ここから、実際の展示をフロアごとに詳しく紹介していきます。

迎え花 ― 展示の始まりを告げる一作
展示は、渋谷ストリームホール4Fの入口から始まります。
会場入り口では、龍生展「植物の貌2025」のメインビジュアルである色面構成の抽象的なグラフィックを大胆に用いたビッグパネルとともに、植物を生けた迎え花が来場者を迎えます。
入場前の待ち時間、そして鑑賞を終えた帰り際には、記念写真を撮るフォトスポットとしても機能するこの空間は、展示全体の世界観を象徴する重要な導入部です。

今回の迎え花は、千葉華翠先生による作品。
グリーンの背景に、枯れの表情を持つアレカヤシをダイナミックに用い、そこに秋の花展にふさわしい赤い実物を配することで、強い色彩コントラストを生み出しています。
特に印象的だったのは、要所に配置された黒蝶ダリアとフォックスフェイスの扱いです。グラフィックな色面構成と、植物の生の表情が拮抗することで、平面と立体、人工と自然の境界が曖昧になるような視覚体験を生み出していました。
写真を撮れば、メインビジュアルが立ち上がってくるようにも見え、同時に植物そのものの存在感にも引き込まれるような作品。
今年も生け花展の幕開けとして、非常に見応えのある迎え花となっていました。

生け花のテーマ席とフリーテーマ作品
迎え花を抜けると、渋谷ストリームホール4Fの展示空間が広がります。
このフロアでは、テーマ席とフリーテーマの中小作品が中心となり、さまざまな状況設定の中で生け花が展開されていきます。
まず目に入るのが、テーマ席のひとつであるトライアングルステージのコーナーです。
三角形に組まれたスチールアイアンを花器に見立て、そこに植物を生けるというこの席では、植物と異素材の関係性、そして通常とは異なる視線の高さで植物を見る体験が生まれます。
普段、床に立ち、正面から見ることの多い生け花作品を、視線を落として鑑賞することで、植物の量感、線の動き、重心の取り方が、全く異なる印象として立ち上がってくるのが興味深いポイントでした。

壁面絵画のような生け花:レリーフ席
トライアングルステージを抜けると、展示は会場奥、壁面まで作品が展開されていきます。
ここで目を引くのが、壁に掛けられたフレームに生ける「レリーフ席」です。
平面に近い構成で植物を扱うこの展示は、一見すると絵画作品のようでもあり、生け花・生花という立体表現が、どこまで平面表現に接近できるのかを問いかける席でもあります。

花材は枝物、葉物、実物や、果物に至るまで多岐にわたり、植物の「厚み」や「影」、フレームからはみ出すわずかな量感によって、静的でありながら緊張感のある空間が生み出されていました。
生け花は立体である、という固定観念を崩し、植物という素材が持つ造形性を再定義する提案が、このレリーフ席には詰まっていたように感じます。

フリーテーマ席:十人十色の「植物の貌」
レリーフ席の周辺には、作家個人が自由に創作するフリーテーマ席が広がります。
ここでは、季節の植物をふんだんに使った、いわゆる「生け花らしい」作品から、植物を用いた極めて個性的な造形表現まで、幅の広い作品群が並びます。

いけばな龍生派の展示テーマでもある「植物の貌(かお)」。
この言葉は、植物が本来持っているあらゆる表情、枝ぶり、傷、枯れ、実り、芽吹きといった要素を、作家それぞれの視点で見つけ出し、生け花表現として立ち上げていくという、龍生派が提唱する生け花芸術の核となる考え方です。

(筆者:出村掬典作品)
フリーテーマ席では、作家自身が花器を選び、花材を選び、空間との関係性を組み立てていくため、まさに十人十色の「植物の貌」が立ち現れます。
華道家としての経験値、日々の稽古の積み重ね、そして植物との向き合い方の違いが、そのまま作品の個性として現れるエリアと言えるでしょう。

紅白の柱に生ける ― 花器なき挑戦
4F展示の中でも、作家の力量が問われるのが、紅白の円柱に直接生けるコーナーです。
高さ約2mほどの円柱に、花器を用いず、植物を直接生けていくこの展示は、支持点の取り方、重心の設計、植物のしなりや反発力を、極めて正確に把握していなければ成立しません。
装飾を排し、植物そのものの構造と向き合うこの席は、生け花・華道における「技術」と「感覚」の両立が、いかに重要であるかを雄弁に物語っていました。

渋谷ストリームならではの展示:窓辺と宙のフレーム
渋谷ストリームホールの特性を最大限に生かした展示が、窓辺に生けるコーナーと、宙に浮かぶフレーム展示です。
大きな窓の向こうには、首都高速道路を行き交う車、商業施設、オフィスビル、そして渋谷の街を象徴する看板広告群が広がります。
この都市の風景を背景に、観葉植物でも装飾でもない、作家の視点で生けられた植物が配置されることで、生け花作品と都市景観が、一時的に同調する瞬間が生まれます。

遠くの情報量が多い背景に対し、あえて植物を合わせていくこの展示は、「都心の真ん中で生け花を生ける」という行為そのものを、視覚的に問い直す試みとも言えるでしょう。

5F:龍生派140年の歴史と現在を知るフロア
展示は5Fへと続きます。
このフロアでは、龍生派140年の歴史の起源を知ることができる展示パネルが設けられ、多くの来場者で賑わうイベントスペースとなっています。
龍生派がどのように生まれ、どのような思想を受け継ぎながら、現代の生け花表現へと至ってきたのか。
初めて龍生派に触れる方にとっても、流派の全体像を理解しやすい構成でした。

生け花を「過ごす」空間:カフェ・バースペース
5Fの裏手には、椅子やテーブルを配したカフェ・バースペースが広がります。
ここでは、軽食やコーヒー、ワインなどのお酒を楽しみながら、生け花作品を鑑賞し、友人や家族と会話を交わすことができます。
生け花展=静かに鑑賞する場、という従来のイメージを覆し、生け花を生活の延長として楽しむ提案が、この空間には込められていました。

初心者・子どもたちへ開かれた生け花体験
同じ5Fフロアには、初心者向けの生け花ワークショップも設けられています。
生け花や華道を体験したことがない方でも、気軽に植物に触れ、花材を扱い、生け花の基本に触れられる貴重な機会です。

また、小中学生、ジュニアクラスの生徒たちの作品も並び、大人顔負けの、純粋でのびやかな生け花表現を楽しむことができます。

時間帯によっては、家元先生の講話や、龍生派を代表する指導員の先生方による講義も行われ、生け花教室・華道教室を探している初心者の方にとっても、非常に学びの多いフロアとなっていました。

6F展示:光に導かれる「ひびか」の空間
展示はいよいよ最上階、渋谷ストリームホール6Fへと進みます。
このフロアは、照明を落とした静かな空間から始まります。
最初に現れるのが、いけばな龍生派が提唱する独自の表現形式、「ひびか」のコーナーです。
「ひびか」とは、生け花作品のスケールを約10分の1まで凝縮することで、植物やお花が持つ微細な表情、すなわち葉脈、花弁の重なり、芽の気配といった普段は見過ごされがちな要素を、強く浮かび上がらせる表現手法です。

暗がりの中、上部から静かに光を放つLEDボックスの上に、小さな作品が一作ずつ生けられています。
来場者は自然と歩みを緩め、目を凝らし、呼吸を整えながら植物と向き合うことになります。
ガラス花器を用いた作品では、わずかな光が反射し、植物・花器・空間が一体となった幻想的な視覚体験が生まれていました。
生け花を「大きく見せる」だけではなく、極限まで縮めることで初めて見えてくる植物の貌。
龍生派の表現の奥行きを感じさせる展示です。

大作・実り・突起・アイランドテーブル ― 表現の集積地
「ひびか」の空間を抜けると、6Fの大きなフロアに出ます。
ここには、
大作
実りのコーナー
突起ステージ
アイランドテーブル
フリーテーマ作品
が集約され、いけばな龍生展のエネルギーが最高潮に達します。

実りのコーナー:秋の植物が語る時間
11月下旬、秋が深まる時期の花材には、数多くの実物が見られます。
この実りのコーナーでは、秋の植物をテーマに、それぞれの作家が「今、この季節にしか生けられない植物の姿」を多様な視点で表現していました。
日本らしさを感じさせながらも、どこか現代的で新しい。龍生派ならではの、自由花としての成熟を感じさせる作品群です。

突起ステージ:生け花の枠を越える造形
壁面から有形の突起が飛び出すステージでは、一見すると生け花とは結びつかない、アスレチックのような環境に植物が生けられています。

不安定な足場、異質な構造物の中にあっても、植物は確かにそこに存在し、空間と拮抗しながら生け花として成立していました。
造形アートに近い印象を受けるこの展示は、生け花・華道という表現の幅広さを、強く印象づけるものだったと言えるでしょう。

アイランドテーブル:横へ広がる生け花
長く設えられたアイランドテーブルでは、植物が這うように、横方向へと展開する作品が並びます。
縦の構成が多い生け花の中で、横へ、奥へと広がるこの席では、作家が植物の「どこを見せたいのか」が、極めてダイレクトに伝わってきます。

植物の流れ、間の取り方、視線誘導の巧みさ。いずれも、華道家としての経験と感性が試される展示でした。

大作:生け花展を締めくくる圧巻の作品
6Fフロアの中心には、吉村華洲家元先生、そして龍生派を代表する教務局の先生方(渡辺雲泉先生・小武山龍泉先生)による作品が配置されています。


家元先生の作品では、約4,5mに及ぶほどの巨大なスペースを用い、秋の植物のエネルギーがダイナミックかつ繊細に表現されていました。
一本一本の差材が持つ個性と、紅葉する姿との調和。日本の四季の美しさと、世界的都市・東京の中心で行われる大規模展示としての説得力。展示全体を締めくくるにふさわしい、圧倒的な存在感を放つ作品でした。


古典華の世界:立華と生花
ここまで紹介してきた展示は、すべて自由花の作品群でした。
次のフロアでは、空気が一変します。
そこに並ぶのは、古典華と呼ばれる、伝統と格式を重んじる生け花作品です。

立華(りっか)
立華は、もともと仏前に供える花、供花として生まれ、室町時代(14世紀頃)から続く最古の生け花形式です。
現在では、この立華を正しく生けられる華道家は限られ、鑑賞できる機会も年々少なくなっています。
龍生派では、140年の歴史の中で口伝によって受け継がれてきた立華の技法と思想を、今なお大切に継承しています。

生花(せいか)
生花は、立華を簡素化し、江戸時代に床の間文化とともに普及した生け花です。
枝物を中心に、自然の出生や成長の理を表現するこの形式は、日本芸術としての生け花・華道の核心とも言えるでしょう。
龍生派は、華道の本流である池坊から派生した流派であり、こうした日本最古の古典華を、現代においても確実に受け継いでいます。

自由花と古典華、その両輪を持つ流派として
現代的で自由な生け花表現と、長い歴史に裏打ちされた古典華。
この両輪を高いレベルで併せ持つ流派は、実はそれほど多くありません。
だからこそ、東京・渋谷という日本の中心地で、この両者を一度に体感できるいけばな龍生展の意義は大きいと感じます。

日本文化としての生け花を、今ここで
変化し続ける渋谷の街で、日本文化・生け花・華道・植物・お花のエネルギーを、これほど大胆に、そして誠実に提示する展示は、決して多くはありません。
この記事を通して、少しでもいけばな龍生派の魅力、生け花・華道という日本芸術の奥深さを感じていただけたなら幸いです。

著者について/いけばな教室のご案内
著者は、いけばな龍生派に属する華道家として活動し、東京でIKEBANA STUDIO いけばな教室 おおら花(Oraqua)を運営しています。
初心者の体験レッスンから、継続的に華道を学びたい方、将来的に資格・師範を目指す方まで、生け花・華道を通して植物と向き合う時間を大切にしています。
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